本来ニーズが減れば、価格が下がるのは当然です。
ところが、印刷用紙はニーズが減少しているのにも拘わらず、価格が上昇しています。
何故このような状況になるのか?
コロナ禍の中で、印刷用紙が高騰する理由を解説します。
コロナ禍+ペーパーレス化で紙の需要は減った
新型コロナウイルスの感染拡大を食い止める策の一つとして、国はテレワークを推奨しました。リモートワーク・テレワークを実現するために、側面から支える支援プログラムも整備されて、多くの企業に導入されました。
リモートワーク環境下の全てに、仕事で使えるプリンターが有る訳ではなく、必然的にデータでのやり取りが増加します。
部署内で紙を使って閲覧していた書類は、リモートワーク下ではデータの閲覧に当然変わります。会議の度に紙の資料を配っていた会社でも、Web会議になればデータの共有スタイルになる事は必然です。
社内だけでは無く、対外的に送る書類についても、PDFファイルを中心としたデータファイルを、メール添付するスタイルに多くが変わっています。
リモートワークに歩調を併せる様に、「脱判子」も始まっています。
特に官公庁では、河野太郎規制改革担当大臣が行政手続きの「認め印全廃」をぶち上げ、全部ではありませんが、大半の書類で押印不要が既に開始されています。
判子を押すために紙の書類にしていた要件が、判子不要になれば印刷する必要が無くなるケースも増加します。
また、感染拡大への懸念から、多くの「イベント・催しもの」が中止や延期に追い込まれて、広告ポスターやチラシカタログ等の需要が激減しています。
コロナ禍以前から、企業の業務効率向上のためのペーパーレス化は広く提唱されています。完全に実現することは多くの困難があっても、多くの企業ではそのメリットを理解しており、今後の方向としては多くの企業がペーパーレス化を目指しています。
これらの事象から紙の需要は減少している事は明らかです。
事実2020年4~6月期決算では大半の大手製紙会社が赤字になっています。
需要が減っても高騰する印刷用紙
上記の内容に加えて、絶対的な人口減少・労働人口の減少やICT化等の構造的な要因もあり、印刷用紙の需要は減少傾向にあります。
コロナ禍以前から紙の減少傾向は既に始まっていて、印刷用紙の内需は過去10年で2割以上の減少があり、生産量も当然同様に落ちています。
物の価格は、需要と供給バランスで決められます。
ニーズに対して生産供給量が追いつかないと、価格は上がります。今は50枚入り数百円で購入可能なマスクが、一時期は5,000円が珍しくなかった時期があったことは、まだ記憶に新しいですよね。
2019年に大手製紙会社3社は、情報・印刷用紙の値上げを揃って発表しています。
年が変わった1月1日から概ね10%から20%程度です。
これが功を奏して、2019年4~6月期決算では大手製紙会社6社の決算は、全社過去最高の増益を発表しています。
しかし、同年秋頃からは本格的なコロナ禍によるニーズの減少で、値下がり(19年の高値から比較して15%近く)が始まります。これで値上げ分の大半を手放すことになり、2020年の同決算は前述のとおり赤字に転落しています。
ところが、2021年に年が変わると1月から一転して値上げ傾向が始まります。
印刷用紙が高騰する理由
需要が低い中でも、印刷用紙が高騰する理由は複数あります。
主に、日本以外の要因や新しい紙ニーズの創出があります。
アジア市場での上昇
中国を中心としたアジア圏では、堅調に需要が回復しています。
特にいち早く回復した中国では、今後の需要増と供給不足を睨んで積極的な買いに向かい、在庫を積み上げています。
原料パルプの値上がり
日本では、紙の原料になるパルプの大半を海外に依存しています。
印刷用紙の原料になる針葉樹チップ輸入先は、米国とオーストラリアで8割を占めます。
両国とも経済活動が停滞する中で、貿易が不安定になり原料供給が戻らない中での需要増に対して、価格が上がっています。
製造コスト物流コストの上昇
原料チップ以外にも、紙を製造する過程において必要な、重油燃料・薬剤・古紙も値上げされています。コロナ禍で増加したネット通販拡大の余波で、物流費も値上がりしています。
通販向け段ボールのニーズも大幅に増えています。
脱プラスチック
環境を破壊しない紙へ、プラスチック製品だったものが移行し始めています。
従来は無かった、新しい紙のニーズが増えています。
製紙会社の方向転換
コロナ禍での感染症予防対策として、マスク・除菌ウェットティッシュ・ペーパータオルなどのニーズが急増しました。現状大きなニーズとマーケットがある、このジャンルに製紙会社が力を入れる事は当然です。新たな紙ニーズの増加とともに、経営資源もそちらにウェイトを置けば、印刷用紙事業の生産力は手薄になります。
印刷用紙の価格は今後も流動的です。
情報を集約すれば、値下がりする要素は現状見当たりません。
今まで大量の古紙輸入先だった中国が、2017年から規制の方針を打ち出して、今年2021年には完全輸入禁止を打ち出しています。
今後、どのような影響が出てくるのか目が離せません。