ペーパーレス化は本当にできるのか。具体的な方法を紹介

必要な時に、必要な情報を検索で瞬時にアクセス出来る「ペーパーレス化」は、業務効率を大幅にアップします。

紙代、印刷代が不要で、紙保存スペースのコストも不要になります。
しかも環境に配慮している企業として、価値向上にも繋がります。

しかし、導入を試みた少なくない企業が、ペーパーレス化に挫折している現実もあります。

働き方改革が叫ばれる中、テレワークを実現するためにも必要不可欠と、国も積極的に後押ししています。
具体的に導入する方法をご紹介します。

目次

ペーパーレス化の背景

ペーパーレス化は、国のルール改正抜きには始まりません。1998年に「電子帳簿保存法」が制定されました。
しかし、保存の対象や条件がかなり厳しくて、ほとんど普及しませんでした。

2004年に「e-文書法」が制定されました。
これは、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律です。

国が、紙で保管する事をルールとしてきた書類を、電子データとして保存することを許可して、奨励するようになりました。国税関係書類や医療書類(カルテなど)と建築図面がその対象ですが、まだ制約も多く出来るのは一部に過ぎません。

2016年に大幅に改正されて、ほぼ全ての文書に対して対象が広がり、必須だった電子署名も不要になりました。(タイムスタンプは必要です)
また、対象書類金額基準も撤廃されて、領収書を含む経費精算等は、飛躍的に合理化が可能になりました。

2019年には、デジタル手続法が制定され、マイナンバーカードや公的個人認証のオンラインでの各種手続きが可能になりました。
国によるデジタル化の推進は、時間や場所を問わずに手続きがワンストップで済む利便性を追求しています。

2025年の崖問題

最近よく聞く横文字に「DX」があります。
昭和世代の「DX」はデラックスでしたが、令和の現代で「DX」は、「デジタルトランスフォーメーション」の意味です。

広く浸透したのはここ数年ですが、初めて提唱されたのは、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授によるものです。その定義は「人間の生活に何らかの影響を与え、進化し続けるテクノロジーであり、その結果、人々の生活がよい方向に変化する」ということです。

日本では、2018年に経済産業省が発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」です。その定義としては、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。

「DX」が大きな注目キーワードになったのは、次いで同省が発表した「ITシステム【2025年の崖】克服とDXの本格的な展開(DXレポート)」です。

この中で、もし日本でDXの実現が出来なければ、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じると予測。実現出来れば2030年に実質GDP130兆円超の押し上げが出来ると予測しています。

これは、現在の仕事を進めている、スキルや技術を持つ世代が減少していく事で、作業手順や業務の流れが失われていく事と、情報が特定の個人に集中している、情報のブラックボックス化を解消しないと、大変な事になるという危機感です。

また、DX化によって単純作業から人間が解放されることで、創造する作業や生み出す作業に効率良く集中出来る様になる、世界の企業と対等に戦っていけなくなる恐怖感です。

DX化と言われても、具体的な業務として、ピンと来ない企業が多い事が現実にあります。
10年前に紙を廃止したソフトバンクで改革を進める総務本部副本部長の吉岡紋子は、「DXの第一歩はペーパーレス化。紙が残っていたら、変革はできない」と何度も述べています。

DXの推進を始めるのに、ペーパーレス化が最適である事は、多くの企業が認識しています。国も前述の法整備だけで無く、積極的に補助金制度を確立して、後押ししています。

ペーパーレス化は加速しています

「DX」と並んで、「SDGs」も注目のキーワードです。

国連サミットにおいて採択された、「Sustainable Development Goals」」の略語です。
持続可能な開発目標として示された中で、8番目の「働きがいも経済成長も」と12番目の「つくる責任つかう責任」は、ペーパーレス化をする事で、SDGsに対して積極的に取り組んでいる姿勢を内外にアピールすることが出来る為、導入する企業が加速しています。

ペーパーレス化が本当に環境に優しいかは、色々な議論もありますが(Co2排出量からみる、ペーパーレスは本当に環境にやさしいのかも、是非ご覧下さい)、SDGsはトップクラスの好感度のあるホットキーワードのため、ペーパーレス化とSDGsへの取り組みを絡めて取り組む姿勢は、企業価値の対外的向上に繋がります。

ペーパーレス化の具体策

いきなり全部をペーパーレス化するのは不可能ですし、無計画にスキャンのスタートは無謀です。

一部門やプロジェクト単位など、対象を絞ってペーパーレスのメリットを理解してもらう事から始めましょう。チーム内で、どれくらい金額的・時間的に得るものがあるかを、明確な目標として設定し共有します。

会議が多く、紙の資料を多く使うプロジェクトや部署があれば、導入するのに最適です。
現在の紙を利用して進めている仕事の中で、かかっているコストを把握します。
紙の使用量や印刷コストだけでなく、準備の為に掛かる人件費等の経費も算出してください。
現状を把握した上で、ペーパーレス化によりコスト削減がどれくらい出来るのか?ハッキリさせます。

併せて必要なツールを導入します。

最低限データ保管場所をファイルサーバーやクラウド上で確保すれば、今使っているパソコンを使って始められます。必要に応じてタブレット端末の導入も検討しましょう。
出来るところから始める手立てとしては、専用のツールシステムが必要になりますが、経費精算も理解が得られやすいと言えます。
出張の多い企業でしたら、個々の社員が領収書を管理し書類に添付し経理に提出する、経理担当者が目視でチェックして集計する、という手順は大きな負担になっているはずです。
これを手元のデバイスで領収書を撮影し、システムに送る事で経費精算が完了という簡潔さは、身をもって知るペーパーレス化のメリットに繋がります。

理解が出てきたところで、

  • ペーパーレス化の意義や目的を明確にして、社内の大きな流れにします。
  • ペーパーレス化する範囲や優先順位を付けて、業務プロセスを見直しながら効果が見込めそうなところから推進します。
  • 推進する中で、ルールを明確にします。扱いやアクセス権限・保存期間など紙媒体と同様に整理整頓する運用が必要です。
  • ITリテラシーが必要になってくるので、苦手な方達に研修やマニュアル作成も不可欠です。
  • 最終的に、過去の資料をペーパーレス化することで、業務改善が進みます。

DXやペーパーレス化と聞くだけで、嫌悪感を示す人が一定数は必ず出ます。その大きな原因は、「知らない」と「わからない」です。特別に高度なITスキルを身につける事では無く、「知っていること」だけ「理解」して徹底する事だけで、簡単に進んでいくことを理解してもらいましょう。

こう言っては失礼ですが、おおよそIT化と無縁で有る様な地方自治体の組織でも、DXやペーパーレス化が進んでいる事も説得する材料になります。

どうしても紙が必要な部署や業務はある

企業は、社内だけで完結する事はありません。

自社内でペーパーレス化を推進しても、取引先に強要することは事実上出来ません。
紙でのやり取りを求められる事や、手書きの書き込みが仕事上で必要なこともあるでしょう。

また、一部の文書には、法令によって電子文書が許可されていないものがあります。
具体的には、緊急時に早急に確認が必要な書類(たとえば、船舶の手引き書等)や、許認可などの現物でなければ意味が無い書面の他、外国との条約により制限がかかっているものもあります。
不動産取引の重要事項説明書・賃貸契約書のように、書面を交付することが法律で定められているものもあります。

ペーパーレス化は、企業文化を変えることが必要になります。
導入を間違えると、非効率化に繋がる事もありデメリットも大いに起こりえます。
試運転を含めて出来るところから徐々に始め、長期的に実現する事が大切です。

この記事を書いた人

名古屋在住のIT・通信・格安SIMライターです。

プリンターはDOS時代のドットプリンターから使い始めて
初期のインクジェット、モノクロレーザープリンター
カラーレーザープリンターを使ってきて
モノクロ複合機を経てカラーデジタル複合機リースに到達。

業務用テキスタイル熱転写プリンター
業務用テキスタイルインクジェットプリンター見学に
国内・海外工場に何度も足を運ぶマニアで
日夜情報収集に励んでいます。

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