インクジェットプリンターに使われる染料の種類には、染料インクと顔料インクがあります。
インクジェットプリンターは、染料インクを使うプリンターとして発売されました。
しかし、染料の歴史としては顔料が遙かに古く、数万年も前から存在していて、洞窟絵に使われているのも顔料です。
染料は顔料と比較すれば歴史は浅いですが、数千年前から利用されています。
繊維を染める主なタイプは染料で、古くから有る藍染めも染料です。
比較的小さな筐体で、美しいカラー写真印刷が出来る、染料を使用したインクジェットプリンターは、発売後も改良を続けて、販売価格も下がった事により、家庭用プリンターとして浸透し、大きな販売台数が占められるようになりました。
しかし、その特性からビジネスの現場には、積極的に用いられる事はありませんでした。
オフィスの印刷に必要な要件として、まず最も重要なのは印刷された文字の表現です。
従来の染料インクを使ったインクジェットプリンターでは、文字が滲みやすく、メリハリが効いていないボヤッとしたもので、メインで利用されているレーザー方式で出力したものに比較すると、明確に劣ります。
この従来の価値観を打破したのが、ビジネスインクジェットプリンターです。
オフィスでの利用が可能になった、メリハリの効いた美しい文書文字は、顔料インクを使う事で可能になっています。
顔料インクと染料インクの違い、そのメリットとデメリットについて解説します。
顔料インクの特徴
顔料インクは、水に溶けず粒子のまま用紙の上に定着するインクです。
顔料インクはビジネス文書に最適
顔料の粒子が大きく、用紙の表面にとどまり浸透しないので、印刷物がくっきりはっきりと現れる点が特徴です。
その特性が最も活かされるのが、印刷されたビジネス文書の文字です。
レーザータイプと同じ様に、染料が用紙に染みこまない事で、読みやすい文字が表現されます。
耐水性に優れることで、印刷された文書に、後からマーカーなどを利用しても、染料インクとは異なり滲む事無く利用出来ます。
乾かす時間も基本的には必要無いため、ビジネスの現場で大量の印刷をするのにも適していて、耐候性などの保存性にも優れています。
乾かす時間が必要無い事で、印刷してから色も短時間で安定するため、印刷した色結果をすぐ確認する事が可能です。
顔料インクは、様々な光源下で色変化が少なく、有る程度一定に見える事も大きなメリットです。
長期保存したい文書などの印刷には、顔料インクが向いています。
そのため、ビジネスインクジェットプリンターには、顔料インクが使われています。
ビジネスインクジェットプリンターについての詳細は、「オフィス利用こそビジネスインクジェットプリンターを導入すべき理由」も、是非ご覧下さい。
全色顔料インクを使うタイプと、カラーには豊かな表現力を活かす染料インクを使い、黒には顔料インクを使うハイブリッドタイプがあります。
高額機種には例外もあり
一般的な認識としては、写真印刷に向いているのが染料インク、ビジネス文書などに向いているのが顔料インク、という分け方で間違いありません。
しかし、中には例外も存在しています。
高精細な色表現を突き詰めていくと、混じらないで色の点でしっかり表現出来る事で、優れた階調性の描写が出来るのは顔料インクです。
また、どんな光源の下であっても、有る程度一定した色を表現出来る利点も、顔料インクに分があります。
色にこだわりがある、仕事して携わるプロ達にとって、印刷直後からカラー変化が起きる染料インクは、ツールとして不充分であり、印刷直後から完成した色表現が出来て、長期的な保存に耐えうる顔料インクの特性を重宝しています。
ギャラリーや博物館・美術館などに展示する印刷物は、光源に左右されずに色表現が出来る事が重要な要素になります。
そのため、高額なプロ仕様の高画質プリンターの中には、顔料インクを使用する写真画質をウリにしている機種が存在しています。
そんなプロ仕様のプリンターが、エプソンやキャノンから販売されています。
代表的な機種としては、カメラグランプリ2021 カメラ記者クラブ賞を獲得している、「エプソンプロセレクション SC-PX1VL」があります。
最小1.5plの微小顔料インクで印刷表面を平滑化した、ブルー領域の階調性と黒濃度向上による別格の表現力が受賞理由になっています。
顔料インクに適した用紙
一般的なコピー用紙以外の紙に印刷する時にも、顔料インクのメリットが発揮されます。つや消しコーティングが施されているマット紙でもキレイに印刷することができます。
繊細な表現力では、色が浸透して混じり合う特性の染料インクには、全く及びません。
用紙に深く浸透していないことで、印刷物に物理的に力が加わった場合には、擦れやすく剥がれやすい事もデメリットです。
顔料インクの特性を活かした、ハッキリとした仕上がりに向いている用紙として、「マット紙」「普通紙」「画材紙」「ファインアート紙」などがあります。
顔料インクの問題点
粒子が大きい事で、初期の顔料インクを使ったビジネスインクジェットプリンターでは、ヘッドの目詰まりが起こりやすいと言われていました。
しかしが、現在は改良が進んで、トラブルが起こる頻度は減ってきています。
現在販売されているビジネスインクジェットプリンターの多くは、問題無く安心して利用することが出来ます。
顔料インクのメリットとデメリット
顔料インクの、メメリットとデメリットを箇条書きにすれば、以下の通りです。
メリット
- 用紙の上にとどまり発色する
- にじみが少なく、輪郭がくっきりとプリントできる
- 光や熱、水に対して強い
- 速乾性があり、用紙が丸まりにくい
- 使うことができる用紙の種類が多い
- 時間経過に強く、色変化が少ない
- 完成した色表現が、印刷直後から確認できる
- 保存性に優れている
デメリット
- インクの数が少ないと画質が荒くなる
- 一般的に写真印刷は、さほど鮮やかではない
- 現在は改良が進んでいるが、染料インクよりも目詰まりしやすい
- 染料よりも値段が高い
染料インクの特徴
顔料インクが用紙に浸透せずに、用紙の上に乗っかる印刷をするのに対して、染料インクは積極的に用紙の中に染みこんで浸透し、混じり合う事で繊細な色や階調表現をする事に優れています。
染料インクは写真印刷に最適
染料インクは、水に溶ける性質をもったインクで、紙に染み込ませて色をつけます。
粒子のサイズがとても小さく、鮮やかな発色性を持つため、写真印刷に最適です。
絵の具のような感覚をイメージするとわかりやすいですね。
異なる色のインクが混ぜることで、複雑な色も鮮明に表現することができ顔料インクよりも鮮やかで透明感があります。
写真印刷に特化した、染料インクを使うインクジェットプリンターは解像度が高く、緻密な色表現が出来る様に設計されています。
染料インクに適した用紙
写真を印刷するときは「光沢紙を使用しましょう。
紙にしみこみやすい染料インクは、光沢紙の特質を大いに引き出すことができます。
染料インクは紙に浸透しますので、印刷面がなめらかになり、光沢感をそのままに発色することができます。
印刷出力してから、インクが乾くまでに時間を要するのは、染料インクのデメリットで、大量の印刷物を印刷直後に重ねている場合、他の用紙の裏にインクが移ってしまう事が有ります。
また、本来の色表現は乾くまで判断出来ません。
染料インクの特性を活かした、用紙に染みこむ事で混じり合い、多彩な色表現をするのに向いている用紙として、「写真用紙」「光沢紙」「ファイン紙」などがあります。
染料インクが衣類に付いてしまったら?
どれだけ注意を払っていても、インク交換や補充の時に漏れたインクが、意図しないところに付着する事がありますよね。
染料インクは水に弱い特性が有るため、直後に水洗いする事が有効な手段になります。
しかし、衣類などの繊維に付着した場合は、その特性が充分に発揮されて、染み込んで浸透していく速度が速く、ちょっと時間が経過するだけで、非常に落としにくい状態になってしまいます。
そんな事態は招かない事が一番ですが、より詳細は「手や衣服にインクがついてしまったときの洗浄方法」「洋服・カーペットなどについたプリンターのインク汚れを落とす方法」も、併せてご覧下さい。
また、インクの身体への影響などについて「インクってどんな成分からできてるの?|人体への影響と清掃方法について解説」も、是非合わせてご覧下さい。
染料インクのメリットとデメリット
繊細な色表現は出来ても、メリハリの効いた文字表現は苦手です。
水に弱く滲みやすい特性があり、光に当たっていると退色する耐光力も弱いため、ビジネス利用の印刷物には向いていません。
染料インクの、メリットとデメリットを箇条書きにすれば、以下の通りです。
メリット
- 発色が鮮やかでクリア
- グラデーションの表現が豊かに出る
- なめらかで光沢感がある
- 顔料と比べて安価
デメリット
- 水に弱く濡れるとにじむ
- 光にあてつづけると劣化し、色あせする
- インクの乾きが悪く時間がかかる
- 手につくと落ちにくい
- 印刷直後とインクが乾いた後で、色が変わって見える
まとめ 何をプリントしたいか?によって最適なプリンターを決める
顔料、染料インクともに明確な強みがあり、デメリットもあります。
印刷物の用途さえ決まっていれば選ぶのは簡単です。
コピー用紙でも鮮明な文字を印刷することができ、水にもにじみにくい顔料インクはビジネス書類の印刷に向いています。
発色が鮮明でクリアな染料インクは、写真印刷にぴったりです。
文書も写真も鮮明にプリントしたい、というニーズが多くありますので、カラーインクには染料インク、黒インクには顔料インクを採用するハイブリッドなプリンターもラインナップされています。
顔料インクと染料インクは、プリンターの設計時に使用するタイプが決まっていて、本来定められたタイプ以外のインクを、印刷物によって使い分ける事は出来ません。
一般的には
家庭用プリンター = インクジェットプリンター = 染料インク
仕事用プリンター = ビジネスインクジェットプリンター = 顔料インク
の構図になっています。
「ビジネスインクジェットプリンターとは。インクジェットプリンターの違い」も、合わせてご覧下さい。
プリンターの購入時から、用途に応じて機種を選択する必要が有ります。
光沢紙を使った写真印刷が主目的なユーザーなら、染料インクを使ったインクジェットプリンターの方が、解像度も高く美しい写真が仕上がります。
ビジネス文書が主目的で、オフィスや在宅ワーク用のプリンターなら、顔料インクを使うビジネスインクジェットプリンターが、レーザー方式に迫る美しい文字表現と、印刷スピードの速さで最適です。