「常識を疑え!」
よく聞く文言ですが・・・一度定着してしまった常識は、簡単には覆りません。
「ペーパーレス化は環境に優しい」というイメージは広く定着しています。
ブランドのイメージアップをはかるために、導入する企業も多くなっています。
今回は、ペーパーレス化が環境に優しいイメージが本当に正しいのか?
CO2排出量の観点から、検証してみます。
電気の利用と紙の焼却のCO2排出量
地球規模で環境保護が提唱されています。
その中心にあるのは、地球温暖化対策です。
温暖化の元凶と言われているのは、二酸化炭素(CO2)の排出で、削減することが環境保護の急務だと言われています。(この常識に関しては、今回は疑いません)
紙を利用する→紙の原料は木材である→CO2を吸収する森林が破壊される→CO2が増加する
というロジックに加えて
紙を利用する→廃棄で焼却が必要になる→CO2を排出する
が有り、紙を利用する事はCO2増加に繋がり、地球温暖化を加速させて環境破壊に繋がっている、というイメージになっています。
「ペーパーレス化で紙の使用を止めれば、CO2が抑えられて環境に優しい」という理屈には、電気を使用すればCO2を排出する視点が抜けています。ペーパーレス化の利用には電子機器が必要であり、その電子機器は電気を利用しなければ使えません。
東京電力の試算によれば、100kwhの電力を利用すると43kgのCO2を発生します。
ペーパーレス化で発生するCO2排出量
具体的に、20人規模のオフィスでペーパーレス化した場合に、月にどれくらいの電力をそのために使うのか?照明や暖房などは考慮せず、純粋に機器のみ消費する電力を計算してみます。
試算条件として、ファイルサーバーを1台24時間稼働・デスクトップパソコン5台(モニターも5台)・ノートパソコン5台・タブレット5台を導入したと仮定します。
ファイルサーバー以外の機器は、月に20日間の稼働として、1日に4時間は最大消費電力量・4時間は8掛けの消費量であると単純に仮定します。
ファイルサーバー(90W)
ファイルサーバーは24時間稼働しますが、4時間は最大電力量・20時間は8掛けと仮定します。
(90W×4時間+72W×20時間)×30日間=54,000Wh=54kWh
デスクトップパソコン(50W)
(50W×4時間+40W×4時間)×20日間=7,200Wh=7.2kWh×5台=36 kWh
モニター(30W)
(30W×4時間+24W×4時間)×20日間=4,320Wh=4.32kWh×5台=21.6 kWh
ノートパソコン(20W)
(20W×4時間+16W×4時間)×20日間=2,880Wh=2.88kWh×5台=14.4 kWh
タブレット(15W)
(15W×4時間+12W×4時間)×20日間=2,160Wh=2.16kWh×5台=10.8 kWh
ペーパーレス化で使用する機器の電力量合計は、1ヵ月に136.8kWh使用する計算になります。
コピー機は、基本的に電源を落とす利用方法をしません。
その前提で電気代の節約が気になる方は、「コピー機、複合機の月の電気代はいくら?削減方法」も併せてご覧下さい。
どちらの方が環境に影響があるか
前述の東京電力の試算に計算で出た136.8kWHを入れて計算してみると
136.8kWH/100kWH(基準値)×43kg(基準値)=58.824kg
つまり、20人規模でペーパーレス化した場合、1ヵ月あたり58.824kgのCO2排出をしていることになります。
ペーパーレス化はクリーンで環境に優しい、というイメージですが、実際には電気を使う事でCO2を排出しています。
しかし、ペーパーレス化によって焼却するはずだった紙が発生しなかった事で、排出しなかったCO2と比較して、数値が大きく下回って
ペーパーレス化によるCO2排出<紙の焼却によるCO2排出
であるならば、ペーパーレス化による環境保全への意味があります。
ペーパーレス化しなかった場合の紙焼却によるCO2排出量
ペーパーレス化しなかった場合の、紙の焼却によるCO2排出を計算してみましょう。
まず、同じ条件20人規模のペーパーレス化によって、使わなかった紙を算出する必要があります。
紙は使った分だけ、全部焼却するわけではありません。
どんな事業内容で、どれだけ紙を使うのかは想定が難しいところですが、上を見て月に10,000枚と、少々無理がありますが20,000枚を焼却したと仮定します。
焼却した場合のCO2排出量は
可燃ごみの重さ(kg)×0.34 =CO2の発生量(kg)
という公式で計算できます。
A4用紙1Kgで約250枚になりますので
1万枚焼却の場合
10,000枚/250枚(基準値)×0.34(基準値)=13.6kg
2万枚焼却の場合
20,000枚/250枚(基準値)×0.34(基準値)=27.2kg
月に1万枚の紙を焼却した場合のCO2排出量は13.6kg・月に2万枚の紙を焼却した場合のCO2排出量は27.2kgになります。
ペーパーレス化は、本来は業務効率を上げる方法として推奨されていますが、必ずしもペーパーレス化を行えば、業務効率が上がるわけでは無く、むしろ業務効率が落ちるケースも多くなっています。
詳細は、「ペーパーレス化は業務効率を落とす?その理由を解説」をご覧下さい。
思惑が醸成する空気感
報道の自由度
2021年4月20日に、国際ジャーナリストNGOの国境なき記者団(RSF)は、「世界報道自由度ランキング」2021年版を発表しました。
このランキングは、ジャーナリストや報道機関の活動の自由度を測定したものです。
意見の多様性や政治・企業・宗教からの独立性等がその尺度になっていて、今回は180カ国に順位付けがされました。
1位はノルウェーですが、発言力と影響力が強い先進七カ国は、一国もベスト10に入っていません。
13位に入ったドイツが最上位で、カナダは14位・イギリスは33位・フランスは34位・イタリアは41位・アメリカが44位で日本は67位という結果です。
自由主義社会では、基本的に思想と発言の自由が有ります。
中国は177位で北朝鮮は179位というランキングになっています。
空気感の醸成
しかし、自由な発言が出来る国でも、発言しにくい問題が有ります。
環境問題に関しては、ある種のタブーになっています。理論的に正論を自由に述べても、冷静な議論になる事は無く、空気感に流されて、正論が「野蛮な理論」「意識低い系の戯れ言」で片付けられる風潮に有ります。
日本でもレジ袋が問題視されて、有料化されました。
その根拠は、海に流失して海洋汚染に繋がるということと、貴重な石油資源の無駄遣いの合わせ技です。
海にレジ袋が流出するのは、劣化しにくいプラスチックが海洋資源に影響を与えるので、確かに問題が有ります。しかし、海に流失したプラスチックゴミの中で、レジ袋が占める割合は0.3%に過ぎません。
日本全体で1年間に出すプラスチックのゴミ総量は900万トンと言われています。その中でもレジ袋が占める割合は僅か1.7%です。
家庭に持ち帰られたレジ袋の多くは、そのまま捨てられる事は少なく、ゴミ袋として再利用される事も多く、単純にゴミとしてのカウントはもっと低くなります。
レジ袋は原油精製で出たナフサを原料としています。使い道の無かったナフサを有効利用している点から見ても、環境の優等生です。「ナフサの輸入量が増えているから、その理屈は嘘だ!」という意見もありますが、日本は原油を産出出来ない国であり、物価の安い国から必要量を輸入するだけの、至極真っ当な経済行為である視点が抜けています。
CO2の排出が、環境に悪影響を与えるという事も、本来は多くの議論が有っても良いのですが、同様の風潮で一本調子に黙殺されているのが現状です。
では何故?こんな空気感が醸成されているのか?自然発生的に出来た事でしょうか?
環境問題はお金になる
その答えは簡単です。「環境問題を利用すれば、お金になる」からです。
京都議定書に盛り込まれた排出権取引は、その最たる物です。解りやすく環境問題が、お金に替わっています。
成熟した紙産業を振興しても、大きなお金が動く可能性はありませんが、IT機器を推進する事で大きなお金が動きます。環境問題で空気感を作って、有無を言わせない中で推し進める中の一つに、「ペーパーレス化は環境に優しい」という詭弁が有ります。
IT機器の中には、レアメタルが不可欠です。このレアメタルの産出国は、現状限られています。今後この分野で注目されるエリアの一つがアフリカ諸国です。
レアメタルの採掘は森林で行われることが多く、そこに存在する木は厄介な邪魔者以外の何者でも有りません。紙を製造するためとは異なり、根こそぎ無かったことにして採掘されることが一般的で、再度その場所に森が出現する事は有りません。
森が奪われることは環境が破壊されるだけで無く、そこに生息する動物の生態系に大きな影響を与えて、絶滅させる危険性さえ有ります。この事実は議論の俎上にさえのりません。
環境問題では、思惑による嘘と、嘘と気が付いていない「意識高い系」の詭弁が多く有ります。
より強力な包囲網
環境問題には、様々な嘘が存在しています。
正面を切って否定する正論を封じ込めるべく、より一層の範囲を広げて、反論に少しでも触れるだけで野暮なイメージを発生させる、新しいキーワードが「SDGs」です。
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」です。
とても強力な効果が有り、企業として無視出来ない存在感を発揮しています。
SDGsについては、「SDGsとは?目標やターゲットについて解説」「SDGsの推進によるメリットとデメリット」をご覧下さい。
逃れられないなら前向きに考えて、プリンターや印刷行為で、SDGsに貢献する方法もあります。
「プリンターや印刷でSDGsに貢献できること」「プリント革命ならSDGsを推進しながら印刷コストカットや業務効率UPができます」をご覧下さい。
結論:ペーパーレスにするとCO₂の排出量は増える
しかし、色々な思惑やキーワードは一旦横に置いておいて、シンプルにここまで計算してきた数値を比べてみましょう。
20人規模のオフィスで
ペーパーレス化によるCO2排出量は58.824kg
非ペーパーレス化で1万枚焼却の場合13.6kg
非ペーパーレス化で2万枚焼却の場合27.2kg
になります。
電力使用量を抑えるために、こまめに電源を落としたり、機器の総数を減らしたりすれば、ペーパーレス化できる枚数は必然的に減少します。
月に10,000枚を焼却する計算をペーパーレス化で行うのには、資料として保存する事も考慮すれば、少なくとも12,000枚から20,000枚程度のペーパーレス化を行う必要があり、業種にもよりますが、20人規模の事業所では、かなり難しい数字です。
どんな角度から贔屓目に見ても
ペーパーレス化によるCO2排出>紙の焼却によるCO2排出
という相関関係は揺るぎません。
ペーパーレスにすると、CO2排出量は増えます。
「紙を使うと森林破壊に繋がり、CO2排出が増加する」というイメージも間違っています。
紙を使わなければ、木を切る必要が無くなります。
森林の持ち主は、維持費や税金等の経費が掛かるのに、お金にならない森林をそのまま維持する理由が無くなります。
当然、その土地で稼ぐための手段として転用する事を考えて、農地・牧草地・宅地開発等を行うのに、森林は無くす必要があります。
森林が適正に循環する経済システムが稼働していれば、伐採された森林は植林されます。
木は成長して使える様になるまでに時間が掛かるので追いつかない!という意見も、疑念があります。
紙は持続可能・再生可能な資源であり、植林も進んでいる事から森林面積は100年前と比較しても確実に増えています。(人口が増加しているのにも関わらず)
データーから考えれば、ペーパーレス化は一般的な常識に反して、環境破壊に繋がると言えます。